メモを取らないで何度も同じことを聞いてくる部下や後輩に疲労感を覚えたり、業務が中断されて悩んでいたりしませんか。この行動は、単にやる気がないのではなく、その人なりの心理や背景が影響している場合が少なくありません。一般的には、自信のなさや記録より話の傾聴を優先するなど様々な理由が存在します。
この記事では、メモを取らない人の特徴と心理的背景を整理し、関係性を損なわずに改善を促す具体的な対処法を解説します。指導者自身のストレスを軽減し、チーム全体の生産性を高めていきましょう。
- メモを取らない人の心理や背景にある複数の原因が理解できる
- 相手のタイプに応じた具体的な指導法や対処法がわかる
- 人間関係を悪化させない伝え方のポイントを学べる
- 指導者自身のストレスを軽減するための心構えが身につく
メモを取らないで何度も聞く人の心理とその背景
- メモを取らない人の3つの特徴
- プライドや自信が原因となる心理
- 記録より傾聴を優先する志向
- メモを取る習慣がない世代的背景の可能性
メモを取らない人の3つの特徴

まず、指導対象となる相手がどのパターンに当てはまるのか、客観的な特徴を把握することが大切です。メモを取らない人の特徴は、主に3つのタイプに分類して考えることができます。
以下の特徴を理解することで、なぜ相手がメモを取らないのかという行動の背景が見えやすくなります。相手の状況を決めつけるのではなく、どのタイプに近いのかを冷静に観察することが、適切なアプローチの第一歩といえます。
自身の記憶力に自信を持っている又は過信している
このタイプの人は、メモを取る行為そのものを「不要なこと」と捉えている可能性があります。
話を聞きながら書くというマルチタスクが苦手
本人は真剣に話を聞いているつもりでも、書く作業に意識を向けると話の内容が頭に入らなくなるため、結果的に傾聴を優先しています。
メモを取るという行為の重要性をそもそも認識していない
このタイプの人は、なぜ記録を残す必要があるのか、その情報が後でどのように役立つのかを理解できていないため、行動につながりません。
プライドや自信が原因となる心理

メモを取らない行動の背景には、プライドや自信といった、より深い心理が関係していることがあります。特に、自分の能力を高く評価している、あるいはそう見せたいという気持ちが強い場合、メモを取るという行為に対して無意識に抵抗を感じることがあります。
このようなメモを取らない人に見られる心理として、「メモを取る=覚えていない、能力が低い」と他者から評価されるのを避けたいという気持ちが考えられます。特に人前でメモを取ることに、自身の弱さや不完全さを示す行為だと感じてしまうのです。また、これまでの経験から「自分は記憶力が良い」という自己認識があり、メモに頼らなくても業務を遂行できると過信しているケースも少なくありません。
人間の脳が一度に処理し、短期的に保持できる情報の量には限りがあります。この認知的な仕組みは「ワーキングメモリ(作業記憶)」と呼ばれています。
米国国立精神衛生研究所(NIMH)の定義によれば、ワーキングメモリは目標指向の行動を導くために、情報を一時的に維持し操作する能力とされています。(出典:Working Memory — RDoC Constructs|NIMH, 最終閲覧 2025-10-07)
記憶力への過信は、このワーキングメモリの容量を超えた指示を受けた際に、情報の抜け漏れを引き起こす原因となり得ます。
記録より傾聴を優先する志向

一方で、メモを取らない行動は、必ずしもネガティブな理由だけではありません。悪気はなく、むしろ真剣に業務に向き合おうとする姿勢の表れである可能性もあります。それは、記録することよりも、まず相手の話を正確に聞き取る「傾聴」を優先したいという志向です。
話を聞きながらメモを取るという行為は、認知科学の分野で「二重課題(デュアルタスク)」と呼ばれることがあります。「聞く」という情報入力と、「書く」という情報出力を同時に行うことは、脳にとって大きな負荷がかかるため、結果としてどちらかのパフォーマンスが下がる可能性があります。
このタイプの人は、メモを取ることに意識を向けるあまり、話の細かなニュアンスや重要なポイントを聞き逃してしまうことを懸念しています。そのため、まずは完全に内容を理解することに集中し、後で記憶を頼りに業務を遂行しようと考えるのです。このようなケースでは、本人の真摯な態度を認めつつ、記憶の限界を補う方法としてメモの有効性を伝えるアプローチが望ましいといえます。
メモを取る習慣がない世代的背景の可能性

近年、特に若手社員において、メモを取る習慣そのものがないという世代的な背景も考えられます。物心ついた時からスマートフォンやタブレットが身近にあったデジタルネイティブ世代にとって、情報の記録・保存方法の常識が、それ以前の世代とは異なっている可能性があるのです。
このような環境で育った世代にとって、会議の内容を必死に手で書き写すという行為は、非効率的に感じられるかもしれません。情報を検索すればすぐに見つかるという感覚も、一時的な記憶に頼りがちになる一因と考えられます。
これは単に個人の資質の問題ではなく、テクノロジーの進化に伴う文化的な変化と捉え、指導のあり方を考える必要があります。このようなメモを取らない人に対しては、頭ごなしに叱るのではなく、なぜビジネスの現場でメモが依然として重要なのか、その理由から丁寧に解説することが求められます。
メモを取らないで何度も聞く人への具体的な対処法
- メモの必要性を丁寧に伝える
- 復唱や要約を促して理解度を確認
- メモを取るための時間や環境を確保
- マニュアルやチェックリストの整備
- 情報共有ツールを活用したナレッジの蓄積
- 人間関係を悪化させない伝え方
- 指導者がやってはいけないNG対応
- 指導者自身のストレスを溜めないための考え方
メモの必要性を丁寧に伝える

相手の行動を変えるための第一歩は、なぜメモが必要なのか、その理由とメリットを丁寧に伝え、本人に納得してもらうことです。単に「メモを取りなさい」と指示するだけでは、相手は反発したり、指示の意図を理解できずに形式的にしか行動しなかったりする可能性があります。
伝える際には、相手の視点に立つことが重要です。英国政府(GOV.UK)が公表しているコンテンツデザインの資料でも、読み手のニーズから始めることや平易な言葉で要点を先に示すことを推奨しています。(出典:Content design: planning, writing and managing content|Government Digital Service, 2016-02)
これを指導に置き換えるなら、相手が得る具体的メリットを明確に伝え、要点を先出しすることで、納得感が高まり行動に移りやすくなります。例えば、「今メモを取る習慣を身につけておけば、複雑な業務を任された時や、将来君が後輩を指導する立場になった時に必ず役立つから」といった形で、本人のキャリアにとってプラスになることを伝えます。
また、「自分のため」だけでなく「チームのため」という視点を加えることも効果的です。「君が記録を残してくれることで、チーム全体の情報共有がスムーズになり、他のメンバーも助かる」と伝えることで、本人の責任感や貢献意欲に働きかけることができます。
- 記憶の限界を補い、ミスを防ぐ(品質担保)
- 業務の抜け漏れを防ぎ、タスクを確実に遂行する(信頼性)
- 後から情報を振り返り、自身の学びを深める(自己成長)
- チーム全体で情報を共有し、業務を円滑に進める(貢献)
さらに、効率的にメモを取るための具体的な方法については、以下の記事で解説しています。あわせてご覧ください。

復唱や要約を促して理解度を確認

メモを取らせるだけでなく、指示した内容が正しく伝わっているかを確認する工夫も重要です。そのための有効なテクニックが、相手に指示内容を復唱あるいは要約してもらうことです。これにより、指導者は相手の理解度をその場で把握でき、認識のズレがあればすぐに修正できます。
例えば、一通り説明を終えた後に「今の説明で重要なポイントを、あなたの言葉で教えてもらえますか?」と問いかけてみましょう。相手が自分の言葉で再構築するプロセスは、単に聞くだけの状態よりも能動的な思考を促し、記憶の定着にもつながります。
もし相手の要約が不十分だったり、誤解があったりした場合は、決して責めるような態度は取らず、「その点は少し違っていて、正しくはこうだよ」と優しく訂正し、再度説明することが大切です。この対話の繰り返しが、相手の理解を深め、何度も同じことを聞く状況を減らしていくことにつながります。
メモを取るための時間や環境を確保

指導している相手がメモを取らないのは、本人の意識だけでなく、指導者側が物理的にメモを取りにくい状況を作ってしまっている可能性もあります。
例えば、立て続けに早口で情報を伝えてしまうと、相手は話についていくことに必死で、メモを取る余裕がありません。特に、前述の通りマルチタスクが苦手なタイプにとっては、大きな負担となります。指導する際は、意識的に話すスピードを落とし、要点の区切りで一呼吸おくことを心がけましょう。「ここまでで何か質問や、メモしておきたいことはありますか。」と声をかけることで、相手は安心して記録する時間を確保できます。
また、立ち話や移動中といった落ち着かない状況で重要な指示を出すのも避けるべきです。可能な限り、デスクや会議室など、相手が落ち着いてメモを取れる環境で話すようにしましょう。こうした物理的な配慮や環境整備は、指導者としてすぐに実践できる具体的な改善策です。相手の立場に立った小さな工夫が、行動変容を促すきっかけとなり得ます。
マニュアルやチェックリストの整備

個人の記憶力やスキルに依存する状態は、業務の属人化を招き、チーム全体の生産性を低下させるリスクがあります。特に、繰り返し発生する定型業務や、手順が複雑な作業については、個人への指導と並行して、誰が見ても同じように作業できる「仕組み」を整えることが極めて重要です。
そのための具体的な手段が、マニュアルやチェックリストの整備です。業務の手順、注意点、判断基準などを文書化しておくことで、担当者はその都度質問しなくても、自分のペースで情報を確認しながら作業を進めることができます。これは、質問される側の指導者の負担を軽減するだけでなく、質問する側の心理的なハードルを下げる効果もあります。
作成する際は、専門用語を避け、図やスクリーンショットを多用するなど、初めてその業務に触れる人でも直感的に理解できるような工夫を凝らしていきましょう。
情報共有ツールを活用したナレッジの蓄積

現代のビジネス環境では、テクノロジーを活用して情報共有を効率化し、チームの知識(ナレッジ)を資産として蓄積していくアプローチが一般的です。個人のメモだけに頼るのではなく、組織的な情報管理の仕組みを導入することで、何度も同じ質問が繰り返される状況を大幅に改善できます。
総務省の通信利用動向調査によれば、多くの企業が業務効率化のためにクラウドサービスを導入しています。(出典:令和5年通信利用動向調査|総務省, 2024-06)
これには、ファイル共有や情報共有を目的としたツールも含まれており、組織的なナレッジマネジメントが広く浸透していることが伺えます。
具体的なツールとしては、以下のようなものが挙げられます。
- ビジネスチャットツール:Slack, Microsoft Teamsなど
- ドキュメント共有ツール:Notion, Google Driveなど
- 社内Wikiツール:Confluenceなど
これらのツールを活用し、業務マニュアル、過去の質疑応答の履歴、FAQなどを一元的に管理し、チームの誰もが検索・閲覧できるようにします。これにより、「まずは自分で調べてみる」という文化が醸成され、指導者の負担軽減とチーム全体のスキルアップにつながります。
人間関係を悪化させない伝え方

相手の行動改善を促す際、最も注意すべきなのは、伝え方一つで人間関係が悪化してしまうリスクです。指導は、相手を責めたり、一方的に考えを押し付けたりする場ではありません。相手の成長を支援するという本来の目的を見失わないために、建設的なコミュニケーション手法を身につけることが不可欠です。
その一つが、相手(You)を主語にするのではなく、私(I)を主語にして伝える「I-message(アイメッセージ)」です。例えば、「(あなたは)なんでメモを取らないの?」と問い詰めるのではなく、「(私は)何度も同じ説明をすると、業務が少し滞ってしまうので、メモを取ってもらえると助かるな」と伝えることで、相手は非難されたと感じにくくなります。
厚生労働省は、職場におけるハラスメント防止のための指針を公開しており、指導の際には相手の人格を否定するような言動を避けるよう注意を促しています。(出典:職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省, 最終閲覧 2025-10-07)
指導とパワーハラスメントは明確に区別されるべきであり、相手を尊重する姿勢が基本です。
相手の行動を尊重しつつ、こちらの要望も伝えるアサーティブ・コミュニケーションを意識し、お互いにとって前向きな解決策を一緒に探していく姿勢で臨みましょう。
なお、アサーティブ・コミュニケ―ションについては、以下の記事で詳しく解説しています。

指導者がやってはいけないNG対応

良かれと思って取った指導が、かえって相手を萎縮させ、成長を妨げてしまうことがあります。特に、メモを取らずに何度も聞いてくる相手に対しては、指導者側もつい感情的になりがちですが、関係性を悪化させないためにも、避けるべきNG対応を理解しておくことが重要です。
前述した厚生労働省の公式サイトでも示されている通り、指導の範囲を逸脱した言動はパワーハラスメントと見なされる可能性があります。具体的には、以下のような対応は避けるべきです。
NG対応 | 相手に与える影響 |
---|---|
人前で叱責する | 相手のプライドを過度に傷つけ、心理的な安全性を脅かす。 |
感情的に詰問する | 相手に恐怖心を与え、質問や相談がしにくい雰囲気を作る。 |
他の社員と比較する | 相手に劣等感を抱かせ、自己肯定感や学習意欲を低下させる。 |
価値観を押し付ける | 相手の思考を停止させ、自主的な改善や工夫の機会を奪う。 |
これらの対応は、短期的に相手の行動を変えさせたように見えても、長期的には信頼関係を損ない、本質的な成長にはつながりません。指導の目的は、相手が自律的に業務を遂行できるよう支援することです。常にその目的を念頭に置き、冷静かつ建設的なコミュニケーションを心がけることが求められます。
指導者自身のストレスを溜めないための考え方

部下や後輩の指導がうまくいかないと、指導者自身が大きなストレスを抱え込んでしまうことがあります。何度も同じことを伝えなければならない状況は、徒労感や苛立ちを感じやすく、精神的な負担となり得ます。自分自身のコンディションを保つための考え方を身につけておきましょう。
まず大切なのは、「一度で完璧にできる人はいない」と期待値を適切に設定することです。人は誰でも、新しいことを学ぶ際には時間がかかります。相手の成長ペースを尊重し、焦らないことが重要です。また、できないことばかりに目を向けるのではなく、昨日より今日、少しでもできるようになったこと、改善した点を見つけて承認する姿勢も効果的です。小さな成功体験の積み重ねが、相手の自信とモチベーションを高めます。
そして最も重要なのは、一人で抱え込まないことです。指導に関する悩みは、決して個人的な問題ではありません。他の上司や先輩、人事部などに状況を共有し、客観的なアドバイスを求めることで、新たな視点や解決策が見つかることもあります。組織として人材育成に取り組むという意識を持つことが、指導者自身の心の負担を軽くします。
- 相手の成長には時間がかかることを受け入れる
- 完璧を求めず、小さな進歩を承認する
- 指導の悩みを一人で抱えず、周囲に相談する
- 指導は「個人の責任」ではなく「組織の役割」と捉える
メモを取らないで何度も聞く人の心理と対処法まとめ
この記事では、メモを取らないで何度も聞いてくる人の心理的な背景から、指導者として取るべき具体的な対処法、さらに指導者自身の心の持ち方までを解説しました。相手の行動には、自信のなさや世代間のギャップなど、さまざまな理由が考えられます。
一方的に正すのではなく、その背景を理解しようと努める姿勢が、信頼関係を築き、自主的な行動変容を促す鍵となります。この記事で紹介した対処法を参考に、より良いチーム作りと人材育成の一歩を踏み出していきましょう。
最後に、ここまでのポイントをまとめておきます。
- メモを取らない背景には自信や傾聴優先など複数の心理がある
- 指導対象の特徴を理解することが第一歩である
- プライドがメモを取る行動の妨げになっている可能性がある
- 傾聴を優先する姿勢は必ずしもネガティブな理由だけではない
- デジタルネイティブ世代にはメモの習慣がない場合がある
- なぜメモが必要かを相手のメリットと結びつけて丁寧に伝える
- 復唱や要約を促すことで相手の理解度を確認する
- 指導者側がメモを取る時間や環境を確保する配慮も重要である
- マニュアル整備は個人の記憶への依存を減らし業務を標準化する
- 情報共有ツールでチームの知識を資産として蓄積する
- I-messageなどを用いて人間関係を悪化させない伝え方を意識する
- 人前での叱責や感情的な詰問は避けるべきNG対応である
- 指導者自身がストレスを溜めないための心構えを持つことが大切

よくある質問
メモを取らないことによるデメリットは?
同じミスを繰り返し、周囲からの信頼を失う可能性があります。また、業務の抜け漏れが発生しやすくなるだけでなく、自身の成長機会を逃すことにもつながり、人事評価に影響することも考えられます。
効率的にメモを取るポイントは?
すべてを書き写すのではなく、要点やキーワードを中心に記録するのがポイントです。後から見返して意味が分かるように、記号や図を活用したり、自分なりのルールを決めたりするのも有効です。
何度伝えてもメモを取らない場合、どうすればよいですか?
まずは1対1で面談し、なぜメモを取らないのか理由を直接聞いてみましょう。それでも改善しない場合は、さらに上の上司に相談し、組織としての方針を検討することも選択肢の一つです。
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